浜松の風を集めて舞いあがれ、みらいーらの凧!
公開日:2021/01/26
新しい年がスタートした1月。
風も強さを増して、寒さが身に染みる季節になりました。
今回のみらいーら×ハマラボのコラボは、「凧」がテーマ。
吹き荒ぶ風に負けず、大空に舞い揚がる凧を眺めて一年の健康を願おう!
お正月特別イベント 浜松科学館の昔あそび広場
まず、最初に訪れたのは、浜松科学館。
お目当ては、浜松科学館で毎年1月上旬に開催される「昔遊び広場」。
このイベントでは、昔からある「お正月遊び」が体験できるんですよ!
ミニ凧づくりのワークショップも開催されているとの情報を受け、早速いってきました。
昔遊びの定番 けん玉やお手玉
コマの回し方をレクチャーしてもらう
会場には、けん玉、お手玉、羽つき、福笑い、めんこ等の昔懐かしい遊び道具が用意されていました。
私もいくつか挑戦しましたが、思いのほかエキサイト!
素朴に見える昔遊びですが、一筋縄でいかないものが多く、ついつい何度も遊んでしまいますね。
ミニワークショップ 作って揚げよう!「ミニ凧」
ミニ凧づくりのワークショップは、今年が初開催!
今回、ミニ凧づくりを教えてくださるのは、このワークショップの企画者であるサイエンスチームの三島さん。
普段はサイエンスチームのスタッフとして、サイエンスショーをしたり、常設のミニワークや展示の解説を担当されています。
三島さん |
ミニ凧は、とても簡単に作ることができますよ。 今、材料を持ってきますね! |
- ミニ凧づくりの材料
-
・ポリエチレンシート…… 15cm × 15cm / 1枚
・凧糸 …… 80cm / 1本、14cm / 2本
・紙テープ …… 35cm〜40cm / 2枚
・油性マジック
・セロハンテープ
STEP1 ミニ凧の表面を作ろう
まずは、凧の表面から工作開始!
ポリエチレンシートに好きな絵を描きます。
─── ん〜、どうしようかな。…タコの絵でも描きますか…。
凧にタコの絵を描くという安易さで今日も生きる
マットの表面に絵を描いたら、糸をはりつける位置にガイドを使って、目立たない程度に印をつけます。 ガイドでつけた印の箇所に一番長い80cmの凧糸をセロハンテープで貼り付け、表面は完成!
手作りのガイド
STEP2 裏面を作ろう
お次は裏面。 ガイドのピンクの枠線上の6箇所についた目盛りに従い、マジックで点を打ち印をつけます。 それぞれの点に合わせて、しっぽ2本と横糸を張り完成!
尻尾をセロハンテープで貼る
完成!
わ〜い!紅白の凧を作ったよ!
ミニ凧を揚げてみよう!
おおお!!
10分ほどで完成した凧ですが、期待していた以上にしっかりと揚がる!
三島さんに気になること聞いてみた
─── 科学に興味を持ったきっかけってなんだったんですか?
三島さん |
きっかけかあ…!難しいですね(笑) 身の回りのことを知るのが楽しかったから、ですかね。 もともと、科学といっても化学などの分野ではなく、動物や植物に興味があったんです。 |
─── 今のお仕事は、どんなところが好きですか。
三島さん |
そうですね、全体的に好きです!いい意味で自由にできるところとか…。 例えば、今日やったミニワークのように自分が提案したことが実現できるし、サイエンスショーも自分がこういうふうにやりたいと思うやり方で皆さんにお伝えできる。創造的なところがやりがいですかね。 |
─── 展示解説も担当されるとのことでしたが、それぞれのスタッフさんの持ち場みたいなものがあるんですか。
三島さん |
持ち場はありませんね。ざっくりとにはなりますが、全ての展示について解説できますよ。 展示解説では、「アクティブ展示解説」というものをご用意している展示もあるんですよ。 「アクティブ展示解説」は口頭での解説だけでなく、小さい実験などを通してその展示の理解を深めてもらうというものです。今は、パスカルの椅子や…、 |
─── パスカルの椅子…?私、以前に三島さんのアクティブ展示解説聞いたことがありますね?
実は以前にもお会いしていた(2019年撮影)
三島さん | 今は、アクティブ展示解説を用意している展示は限られていますが、ゆくゆくは全ての展示で出来るようにしていきたいですね。 |
─── 館内の展示で一番好きな展示はどの展示ですか?
三島さん |
ええ!(笑)難しいですね!(しばらく考えるも)決められないなあ…。 う〜ん、展示ではないですが、やはり私の推しはサイエンスショーですね。 |
建物の中心に位置する大きなステージでサイエンスショーが行われる
─── やっぱりサイエンスショーですか。浜松科学館のサイエンスショーはどんなところが魅力ですか。
三島さん |
多様性があるところですかね。担当するスタッフによって、少し内容が違ったり表現方法が違うんですよ。現在は7、8種類のテーマを取り揃えています。 そして、持ち回り制のため、ショーを担当するスタッフも変わります。 いろんなテーマがある上に、スタッフが違えばそのスタッフなりのアレンジが加わったりしますから…、飽きないと思います。 |
─── バリエーション豊かだなあ。ショー担当スタッフさん達は全てのテーマが出来るんだ!すごいなあ。
翼もない、ジェットエンジンもない、凧が空に揚がるのはどうして?
とってもシンプルな造りの凧ですが、手に持って引っ張るだけでどうしてあんなにスイっと空に揚がるのかを三島さんに聞いてみました。
─── 翼がない、とってもシンプルなつくりの凧が、あんなに安定して空に揚がるのはどうしてなんですか?
三島さん |
ミニ凧を使って少し実験をしてみましょうか。 凧の仕組みを知るために、凧からいろんな要素を削ぎ落としていきましょう。 |
マットに糸をつけただけの凧
揚げてみる
─── お、揚がりはする!持った感じはすごく軽い。…けど、この凧、くるくる回っちゃって動きが定まらない感じで落ち着きがないですね。なんというか、バタバタぐらぐらする。
三島さん | では、少し要素を足してみましょうか。今度はしっぽを付け加えてみましょう。 |
─── あ、しっぽの分だけ重くなったのか、抵抗を感じますね。…ぐるぐる回らなくなって天地が固定された。ただ、重くなった分、高く飛ばなくなっちゃった。
三島さん |
しっぽの重さで左右のバランスが取れるようになりましたね。 しっぽには、強風の時に風を受け流してくれる役割もあるんですよ。 先程は、凧にぶつかった空気が散り散りに流れていました。しっぽが加わったことで、凧にぶつかった空気がしっぽに沿って流れていくようになったんですよ。 |
─── しっぽって飾りじゃなかったんだ!ちゃんと役割があったんですね。
最後に横糸を張る
─── おお!さっきより手応えが軽くなったのと、揚がるのも速い気がする!何より、高く揚がる。
三島さん |
横糸を張ることで、凧に反りが加わったわけですね。 より高く揚がるようになったのは、一定方向に風を当てて受け流せるようになったからです。 |
風を上手に受け流せるようになった
三島さん |
凧に風が当たると上向きに揚力が生まれます。その揚力によって凧は上に揚がります。 けれど、それだけでは安定して揚がらないので、しっぽやそりをつけることで安定して上手く揚がるようにしているんです。 |
真上に力が働く
─── 凧って風に乗って空に浮かんでるんじゃないんだ!
三島さん |
特に、反りをつけて風の流れを一定にすることは、凧を安定して飛ばすために重要です。 作ったミニ凧が揚がりくくなったら、ポリエチレンシートを曲げて反りを戻すと良いですよ! |
─── 凧の面に風を当てることで揚げているのか。だから、向かい風に走るんですね。そういえば、「凧を飛ばす」って言いませんね。「凧を揚げる」って言う。言葉にヒントが隠されていたんだ。
三島さん | 風が当たれば当たるほど揚力は強くなるので、風が強ければ強いほど空に揚がる力は強くなります。 |
─── とてもシンプルな形の中に、風の力をうまく利用する知恵が詰まっているんですね。
三島さんがワークショップを企画する際に事前に作った試作品を見せていただきました。試作品の一部
本番では、ポリエチレン素材が採用になったそうですが、トレーシングペーパーやビニール、紙などいろんな素材で凧を作ったり、大きさを変えてみたりなど色々試してみたとのこと。
三島さん |
小さいものも試してみましたが、小さいとクルクルまわってしまい、安定して飛びにくいのでボツにしました。 逆に大きくしすぎると飛ばしたときに、ポリエチレンシートの重さと当たる風の力に負けてひしゃげてしまいボツになりました。 |
三島さん |
この二つは、トレーシングペーパーとビニールで作ってみた試作品です。 素材が柔らかすぎると向かい風に耐えきれずにひしゃげてしまって飛ばせませんでした。 |
─── 軽いだけじゃだめなんですね。風に負けないように、ある程度の弾力が必要なんだ。
三島さん | ポリエチレン素材には及びませんでしたが、コピー用紙でも飛ばすことができましたよ。 |
─── へえ〜!実験して検証してみるって面白いですね!すごくわかりやすかったです!
ミニ凧づくりを大いに楽しみ、三島さんにもたくさんお話しお聞けて大満足。
帰り道もミニ凧とお散歩気分♪
手作りするとすごく愛着がわきますね。
ミニ凧づくり楽しかった〜
大空に揚がる大凧が見たい!
さあ、実はここからがこの記事の本番!
実は、浜松科学館広報担当の方からこんなタレコミが…
「浜松科学館には寄贈された凧がある。しかも、その凧は一度も揚げてみたことがない。1月中旬にこの凧を作った方に協力してもらいこの凧を揚げてみるらしい…」
よし!見にいきましょう!
ということで、早速、その凧揚げの立ち会いをしてまいりました!
一年の初めにぴったりな景気のいいイベントだ!
浜松市民の凧揚げはここが定番! 風車公園で凧を揚げてみよう!
会場になったのは、風車公園。
通年を通して凧揚げを楽しむ人を見かけることができます。
今回は特別に、凧を寄贈した凧づくりの名人 加藤さんが凧揚げを手伝ってくださるとのこと。
凧名人と聞き、どんなご高齢の方が登場するのかと勝手に想像していたので、お姿を見た時には驚きました。
女性!?
─── 勝手におじいさんが来るのかと想像してました(笑)本日はよろしくお願いします!
こちらの勝手な想像とは全く違った加藤さん
そして、こちらが加藤さんが浜松科学館へ寄贈したという凧。
みらいーらの凧
─── この凧はどういった経緯で作られたんですか。
加藤さん | 実は、凧づくりは本業ではなく普段は市の職員をしているのですが、浜松科学館さんの担当をしていた職場の先輩から、科学館さんの展示のための凧の制作をお願いされたのが経緯です。科学館さんにデザインを提案いただいて、私が凧の制作をしました。 |
そして今回、凧を揚げる大役に大抜擢されたのが、先日ワークショップお世話になった浜松科学館の三島さん。
実は、三島さんは京都出身。凧揚げは初めてだったそうで、この日のために凧揚げの特訓をしてきたんだとか。気合十分です!
頑張るぞ〜!
─── 本日の意気込みは?
三島さん | とにかく壊さないように…(笑)無事に凧が地上に帰って来られるように頑張ります! |
加藤さん | 今日は(凧を)潰さないように頑張ります! |
─── あははは!(笑)やっぱり壊さないようにっていうのが大きいですかね、今日は。
前準備として、「尾っぽ」と呼ばれる部分をつける加藤さん。本来は一本の竹を使用するそうですが、みらいーらの凧は持ち運びを考え分解できるようにしたのだそうです。
─── ワークショップで作った凧はしっぽは2本でしたが、今日は1本なんですね。
加藤さん | 浜松の凧は基本、1本ですね。尾っぽにつける縄の本数を増やしたり減らしたりすることで重さを変えています。 |
─── へえ!重さを調節できる凧って珍しいですね。今日の風はどうですか。
加藤さん |
今日の風はすごく凧が上がりやすいです。強過ぎず、弱過ぎず。 尾っぽの縄は3本くらいでいいかな。少し重かったらまた減らしましょう。 |
綺麗にまとめられていた糸をほどく
加藤さん | 空に揚げるための凧糸に凧をくくりつけます。 |
といって加藤さんが取り出したのがこちら。
凧糸!?
─── え?これ凧糸?ホース巻くやつみたいのに…巻いてある?
加藤さん | そうなんですよ。これは実際にホース巻くためのホースリールです。ホースリールに凧糸を巻きつけたものですね。自作です! |
凧糸に凧をくくりつける
各自、定位置につく
加藤さん | 準備できました!いつでもOKです。 |
三島さん | はい!じゃあ、揚げましょう。せーの! |
ふわっ
─── おおお!スッと浮いた!
揚がった〜!
やった!
気持ちよさそうに空に揚がる凧
─── 手応えはどうですか。
三島さん | 今は結構上に引っ張られてますね。なので、凧糸を握る手を緩めるとスルスルスル…と上に飛んでいきそうです。 |
─── (凧糸を持たせてもらう)うお!結構、強い!重いですね!
加藤さん |
風が強いと重く感じますね。 後は、凧が大きいと受ける風も多くなるので重いです。 |
雲まで揚がれ!天まで揚がれ!
─── 写真バッチリ撮れました!
三島さん | では、下ろします! |
着地
三島さんも凧もお疲れ様でした!
スススと手早く凧の片付けをする加藤さん
糸の畳み方が独特
─── わ!それどうやってまとめてるんですか?
加藤さん | え? あ、そういえば独特ですね!このまとめ方だと紐を引っ張るだけで簡単に解けるんですよ。 |
へ〜!
無事に揚がってひとまずほっとするお二人
─── お疲れ様です!凧を揚げた今の感想は?
三島さん |
すごく揚げやすかったです。すごく完成された凧だなと思いました。 大きな凧なのに、容易く作ってしまうのが名人だな、と。 |
加藤さん |
一安心です!上手に揚げてくださったので、無事に済みました。凧の尾っぽもちょうど良い重さにつけれたかな。 こういった取り組みをきっかけに、より多くの方が凧に興味を持ってくれたら嬉しいですね。 |
名人に凧のこと聞いてみた
─── 凧に興味を持ったきっかけって何だったんですか。
加藤さん |
浜松まつりですね。
両親も浜松まつりが好きで、幼い頃から浜松まつりに参加していました。 凧を揚げたり、修理したりとかをしていくうちにどんどん魅力に引き込まれていきました。 |
─── 凧の修理?浜松まつりの凧ですか?
加藤さん | そうです。浜松まつりが近づくと町民が集まって修理するんですよ。 |
─── へ〜!町ぐるみで!
加藤さん | そこでいろんなことを教えてもらい、高く揚げるためにはどうしたら良いのかなというのを自分で考え始めて…、そこから自分でも凧を作ってみて、揚げてみるようになりました。 |
─── 今までどのくらいの数の凧を作ってこられたんですか。
加藤さん |
あんまり多くなくて…50枚以内ぐらいかな…? う〜ん? 数十枚?いや、30枚くらい! さっきは50枚の中に、小さい頃に作った変な形の凧とかもカウントしちゃったから(笑) ちゃんとした凧の形で作ったのは30枚くらいです。 |
─── 加藤さんにとって凧づくりの魅力ってどんなところなんですか。
加藤さん |
難しい!(笑)凧づくりには正解がなくて、人によっていろんな作り方をしています。 ですので、自分なりにいろんな方法を試していけるところですかね。試しに作って、空に揚げてみて、「あ、こっちの方がいいな」とか。人の作った凧をみて技術を学んだり…、そういった交流も魅力の一つですね。 |
─── いろんな人がその人なりのノウハウを持っているんですね。作り手によって凧も千差万別ということか。奥深そうだなあ〜、凧作りの世界。
凧づくりの現場に行ってみた(一瀬堂際物店)
「凧づくりの現場をみてみたい!」と加藤さんにお願いしたところ、お付き合いのある一瀬堂際物店を見学させていただけることに。
浜松まつりで使用する大凧を制作している一瀬堂際物店。
その創業は明治14年にさかのぼり、浜松の凧工場の中でも指折りの歴史ある工房です。
加藤さんと古橋さん
─── ちなみにお二人はどんな風にお知り合いになられたんですか。
加藤さん |
有名な凧屋さんなので私はもちろんお知り合いになる前から知っていました。 親しくさせていただくきっかけになったのは、遠州海浜公園(風車公園)に集まった凧仲間たちで「令和を祝って有志で凧つくろう」という企画が立ち上がったんです。 |
古橋さん | うちがその凧を作らせてもらったんですよ。そのご縁ですね。 |
令和元年を祝しての凧
─── すごく立派な凧!こうやって面白いイベントを一緒に楽しめる凧仲間がいるって素敵ですね。
早速、2階の作業スペースに移動しお話を伺いました。
工房内はロウの匂いがした
一瀬堂際物店の古橋さん
─── 一瀬堂際物店さんはどんなお店なんですか。
古橋さん | 浜松まつりの凧をメインで取り扱っています。その他には、際物(キワモノ)といって、お祭りの際に軒先に飾られる軒花(のきばな)や節句の人形などの季節ものの商品や、開店祝いの花輪も取り扱っていますね。 |
個性豊かな凧のデザイン
古橋さん |
現在、浜松まつりの凧揚げ合戦には174町の自治体が参加しています。 旧浜松市の頃の浜松まつりは約60の町が参加していたのですが、昭和50年代くらいから自治会単位の参加になり、「うちも参加したい!」と参加する町が増え、現在の数にまでなったんですよ。 |
凧揚げ合戦のために独自の進化を遂げた浜松の凧
古橋さんに浜松の凧がどのように作られていくのかをお聞きしました。
6帖の凧の土台
古橋さん |
まずは、竹で骨組みを作ります。 こちらの壁に立てかけてあるのは6帖の凧の土台となる部分。 6帖の凧でだいたい21本×21本の骨組みを使用してます。18マスありますね。 |
─── 6畳?
古橋さん | あ、“じょう”は「畳」じゃないです。「帖」という字。紙の大きさを表す時に使う単位で壁紙を扱う方たちの間でも使われていた単位と聞いてます。 |
古橋さん | 骨組みに使われる竹は2種類あって、まず最初の土台を作るのは、「真竹」という筍が生えてくるような太い竹。「男竹」と呼ばれます。 |
古橋さん |
竹の太さにもよりますが、大体1本の竹につき70~80本ほどの骨を作ることができますね。 凧2枚分が取れるか取れないかくらいの本数。 6帖の凧だと骨一本の幅はだいたい6mmかな、厚さは2.6mmくらい。 |
─── 細かい!竹を切る道具は特殊な道具を使ったりするんですか?
古橋さん | 特に特殊な道具はないですね。基本的にはナタ。後は、竹の内側を掻き出す「銑(セン)」という道具があります。昔からの道具が何本かあるので、それで作ってますね。 |
骨組みを固定するのは麻の糸。
昔は麻を撚って(よって)作ってたそうですが、今はコスト感の見合う良い麻を見つけるのが難しいとのことで紡績加工を施した麻の糸を使用しているそうです。
─── 一個一個結んでいくの時間かかりそう〜!
古橋さん | 僕はまだまだひよっこなんであれですけど、うちにきてくれている長い職人さんだと一人でサッサッと結んでいきますよ。6帖だと400カ所ほど縛っていきますね。 |
─── 浜松まつりの凧は初孫の誕生を祝って揚げる初凧と、町同士の凧揚げ合戦に使う喧嘩凧がありますよね。ここにある土台はどちらの凧なんですか。
古橋さん |
厳密に初凧、組凧(喧嘩凧)と分かれているわけではないんですよ。 お子さんのお名前が入っているのが初凧という違いくらいで。だから、凧の造り自体は差をつけて作っているわけではないんです。 ただ、「うちの凧は軽くしてほしい」「18マスの凧は風が弱いとき重くて飛ばせないから12マスにしてほしい」などの要望を受ける時もありますので、オーダーによっては作り方に差が出ることはありますね。 |
凧の裏側
古橋さん | 最初に骨組みに使われる竹は2種類と言いましたが、裏側の骨組みには「女竹」と言われる細い竹を使います。横骨とバッテンの部分ですね。 |
─── 頑丈なつくりだなあ。
古橋さん | 裏側の骨組みができたら、紙をはって、絵を描いて、蝋を塗って、色を塗っていきます。 |
─── 凧の絵はフリーハンドなんですか。
古橋さん | 絵柄によって違いますね。絵柄を同じように作らなくてはいけないので、ある程度は型紙を使ったりします。物によっては、フリーハンドでマス目を目安にして描くこともあります。 |
─── マス目を意識して描くんですね。絵を描くというより、製図に近いですね!絵の具は日本絵の具を使うんですか。
古橋さん | 顔料ではなく、染料を使います。染料は布を染めるものというイメージがあるかもしれませんが、紙用の染料を使います。いわゆる、インクですね。水性の染料は光に透けるんです。ただ、和紙なんかに塗ると滲んで色が広がってしまうんですよ。ですので、それを止めるために蝋を溶かしたものを色をつける前に塗って色止めを行います。 |
浜松凧 特徴① 骨組みが強固で正方形
─── 裏側にも補強するのは、やっぱり強くしないと強風時に壊れてしまうからですか。
古橋さん |
実はね、凧を揚げるだけだとすると土台の骨組みで十分なんですよ。 むしろ普通の凧より骨自体は多いくらい。 |
─── そうなんですね…! そうか、喧嘩させるからちょっと丈夫に?
古橋さん |
だと思うんです。
僕らも生まれた時からこの形として成り立っているので推測でしかないんですけどね。 世の中には長方形だったり、他にも揚げやすい形の凧がある中で、この正方形の形になっていったっていうのは、凧合戦のためでもあったんじゃないかなあ。 |
─── そういえば、取材前に凧の形を調べていたのですが、正方形は正方形でもダイヤ型のものが一般的なようでした。
古橋さん | そうそう。正方形をこのままっていうのは…、力学的にも揚がりにくい凧の形ですよね。 |
─── 浜松で育つとこれが普通の凧だと思うから、特に違和感なく受け入れてました。
古橋さん |
ですよね。実は浜松凧って変わっているんです。 凧の形は先人達の試行錯誤の賜物ですので、その形は大事に受け継がれてきました。 独特な造形が多々あり、僕らも作っていて「なんでここはこうなんだ?」と思うところもありますよ。 |
古橋さん |
例えば、凧の角のところ。 凧の四隅の角のうち下の角は二つは、角丸になってますでしょう? なんでって言われると僕らもわからないんですよ。 |
角丸
古橋さん |
これも推測になってしまうのですが、2本の竹を重ねてしまうと着地した際に折れやすくなってしまうからなのかな、と。 この角は、一本の竹を熱で曲げて作っています。 |
─── なるほど。角から落ちた時に衝撃を和らげるのが角丸なんだ。
浜松凧 特徴② 尾っぽが一本
古橋さん |
後は、完成時に尾っぽを一本入れます。 正方形の凧は安定しにくいので尾っぽでバランスを保つんです。尾っぽが一本というのも珍しいですね。和凧の中では尾っぽが二本あるのが一般的です。そのほうが揚げやすいですから。 一本の尾っぽに、荒縄をくくりつけていくというのは浜松独自のスタイルですね。 |
尾っぽに荒縄をくくりつけて重さを調節する
古橋さん | おそらく、左右の尾っぽに糸をつけると凧合戦のときに糸を取られやすくなったりね、そういった事情による進化があったと思うんですね。 |
浜松凧 特徴③ 親糸と小糸
─── 浜松まつりの前に「糸目付け式」というのがありますよね。糸目って何ですか。
古橋さん | 日本の凧を揚げるためには支点が必要なんですが、基本的には2本ないしは3本の「糸目」って言われるものが必要になってくるんですよ。 |
浜松まつり会館でもらえるミニ凧で解説
古橋さん |
糸を結んだ位置に支点ができるのですが、支点の位置を上の方にすると、地面と水平の向きに凧が揚がります。この状態を「ノシ」と言います。 今度は、下の方を支点にしてみると垂直になる。この状態を「タチ」と言います。 ちなみに「タチ」の時の支点は凧全体の半分よりちょっと上が限界と言われています。 |
加藤さん | 糸目をどうつけるかで空に揚がった時の凧の向きが変わるんです。 |
古橋さん |
そうそう。凧の向きを決めるのがこの3本の糸。この3本を親糸と呼んでいます。 ここまでは一般的な凧にも共通のことなのですが、浜松の凧はさらにこの3本を基準に細かい糸をたくさんつけていきます。 |
─── 浜松の凧は糸が多いんですね。それは強度のためなんですか?
古橋さん | 強度のためと言われていますね。細かい糸は「小糸」と呼んでいます。「親糸」と「小糸」は太さが少し違い、親糸の方が太い。この「小糸」は浜松独自なものですね。 |
浜松凧 特徴④ 凧合戦なのに大きな凧を揚げる心意気
古橋さん |
全国的に大凧を揚げる文化のある祭りは他の地方にもありますが、普通は揚げるだけ。 逆に、凧合戦をするところだと割と小さめなたこでヒュンヒュン飛ばして糸をきる、小さい凧で素早く糸を切るのが見所。 ガラス粉を入れた糸だったり…、特殊な加工をしたりしてね。 |
古橋さん |
普通の糸同士を摩擦だけで切るということは、それだけ力が要ります。何度も擦り合わせたり、凧の重さもないとなかなか切ることができない。 凧合戦をするのにこんな大きい凧を、しかも普通の糸で、というのは浜松しかないですね。 |
─── ド正直!真っ向勝負!って姿勢は嫌いじゃないな(笑)浜松の凧は喧嘩凧で勝ちたいという気持ちが生み出した進化の歴史なんですね。
古橋さん |
浜松の凧の面白さは、揚げやすさと相反する「糸の切り合いにおいての強さ」が求められるところ。 「揚げやすい凧」と「合戦で勝つための凧」。 普通だったら「どっち取るの?」っていう相反する要素の間で、先人達が試行錯誤して進化していった凧なんですよ。 |
凧をうまく揚げるには?
三島さん |
加藤さんの作った凧はすごくバランスがよく揚げやすくて驚いたんです。 上手く揚がる凧と揚がらない凧の違いって何なのでしょうか。 |
古橋さん |
それはね、凧の造りもあると思いますが、加藤さんが尾っぽをつけるときのバランスが良かったんだと思います。 もちろん、凧自体の造りのバランスの良さも関係あると思います。 一本の竹でも上の方と根本の方でも細い太いがあるので、竹の向きを違い違いに組んだり、凧を揚げた時に基本的に上の部分に力がかかるので、上の方に強度が出るように作ったりすることで揚げやすい凧になります。 |
三島さん | 凧だけじゃなく、加藤さんの調整が上手だったんですね。 |
古橋さん |
うまく揚がるか揚がらないかっていうのはいろんな要素が絡んでくるんです。 例えば、風向きや揚げる人の技量、直前のセッティングであったりね。 凧一枚の実力というよりは、その後のセッティングも大いに関係があったりします。 |
─── セッティングとは何をするんですか。
古橋さん | 細かい糸目の調節や糸目を入れる場所であったり、尾っぽの縄の量の調節だったり、その日の風に適した凧の張りだったり…。張りというのは、凧を弓状にするために糸を結ぶんですけど…、 |
─── その日に弓状にセットするんですか!
古橋さん | その張り方ひとつでも揚げやすさは変わってきますので。上を強く、下を強くとか、左右均等にとか。 |
─── 凧を揚げる前の準備がこんなにたくさんあるなんて知らなかった!調整の感覚は揚げていく中で培われていくものなんですかね。
古橋さん | 経験ですねえ。凧揚げの面白さといったらそこも含めての面白さですよ。 |
加藤さん | 揚がらなかったらやり直したりっていうのでだんだん覚えていきます。一発目は違ったなってこともありますよ。 |
─── 加藤さんレベルの人もあるんですか?
加藤さん | 全然あります。揚げてみて、尾っぽが重すぎたとか、軽すぎて振っちゃうとか。 |
古橋さん |
その日の風だったり、自分に合ったセッティングというのもあるので。 ノシの方が凧を引っ張る力が少なくて済むのですが、その代わり凧自体が揚がる力も少ない。タチは推進力があるので高く揚がりますが、その代わり凧を引っ張る力が強い。 小さい凧なら大丈夫ですが、4帖6帖もある大凧だと、凧を揚げる自分たちの腕力だったりとか、凧揚げのスタイルだったり、その町の音頭取りの人の考え方によっても、凧のセッティングは異なります。 |
─── へえ〜!その場の環境や人などの状況も加味しなくてはいけないんですね。
古橋さん | F1に例えると、凧が車。それをセッティングする人がいて、糸を持つ人がドライバーだと思ってもらえれば。 |
─── なるほど。わかりやすい。凧を揚げる技術って、セッティングも込みの力なんだなあ。
大空に揚がる凧は見ていて気持ちが良くて晴れ晴れした気分になりました。
昔の遊びと侮るなかれ。凧が揚がるその瞬間は、凧を揚げてみると、寒さも吹っ飛ぶくらいに嬉しいもの。
また、凧を作る工房も覗かせていただき、その奥深さには唸るばかり。
浜松の人の「凧合戦でいかにして勝つか」という熱い想いが、浜松凧独特の形状を生み出しているっていうのが面白かったです。
世間的にも、屋外で気軽に楽しめる遊びとして再注目されている凧。
二十代の若者で凧に夢中になる人もここ最近は増えているのだとか。
凧揚げは一年中楽しめるようですが、風の強い冬の方が初心者にとっては比較的揚げやすいとのこと。
まだまだ風の強い日々は続きそうです!この冬は凧揚げに挑戦してみるのはいかがですか。
この記事を書いた人
- 猫と一緒に暮らし始め、猫アレルギー疑惑が払拭されました。猫の毛ってすごい空中に舞いますね。ふわふわ。
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