空間を味わう。龍雲寺の庭園と世界一大きい般若心経
公開日:2020/06/15
西区入野町にある龍雲寺に行ってきました。
およそ9000坪の境内には、拝観料が無料だとはとても思えない見ごたえある展示物の数々があります。
宮家ゆかりの龍雲寺
龍雲寺は、今から約700年前の南北朝時代、時の皇太子であった木寺宮康仁親王(きでらのみや やすひとしんのう)が現在の龍雲寺境内に屋敷を構え、祈願所として寺を建立したのが始まりです。
ご本尊には木寺宮家に代々伝わる平安時代作の弥陀如来像が。
拝観の際には、必ずご本尊様をお参りしましょう
1573年、三方原の戦い(武田信玄軍と徳川家康・織田信長連合軍との戦い)にて、春屋妙葩(しゅんおくみょうは=南北朝時代の臨済宗の僧)と武田家菩提寺との縁により武田軍の味方をした木寺宮家と龍雲寺は家康公に攻められ、ご本尊と山門以外は消失しました。
無事だった山門
現在の本堂は、江戸元禄時代に再建されました。
隅々まで手入れをされている本堂は大変美しいです。
江戸元禄時代に再建された本堂
美しい本堂
親王御墓所
境内には、木寺宮康仁親王の御墓所があります。
木寺宮康仁親王之御墓所
御墓所のすぐ右下に広がる墓地が、木寺宮家屋敷跡です。
木寺宮家屋敷跡
気軽には行きづらい?
そんな由緒ある龍雲寺ですが、あまねく門戸を開いております。
庭の塀をわざと低くし、本堂を覗き見ることができるようにし、通り掛かった人が中に入りたいと思わせるような造りになっています。どなたでも受け入れる寺本来の姿勢を表しているそうです。また、坐禅会や写経会、お寺でピラティスなど地元の方が足を運びやすい催しを行っています。
観光寺院ではありませんが、自由に拝観・散策ができるお寺です。
拝観は左の衆生門から中へ
庭園 平成の小堀遠州の名庭
龍雲寺の見どころのひとつは、“平成の小堀遠州”と称される北山安夫氏によって作庭された本堂前の枯山水庭園「無量寿庭」と本堂裏庭の池泉回遊式庭園「清浄庭」です。
- 小堀遠州(こぼりえんしゅう)
- 安土桃山時代から江戸時代前期にかけての大名、茶人、建築家、作庭家、書家。日本を代表する庭園といわれる大徳寺の孤篷庵(こほうあん)や桂離宮の庭園の作者として知られている。本名:小堀政一(こぼりまさかず)
- 北山安夫(きたやまやすお)
- 日本を代表する庭師。京都・高台寺や大徳寺内、建仁寺の庭園などの修復監修、愛知万博の日本庭園の作庭で知られている。大河ドラマ「麒麟がくる」では明智光秀の家の作庭を監修。
本堂前「無量寿庭」(枯山水庭園)
本堂前の枯山水庭園「無量寿庭」。
枯山水とは、水を使わずに山水の趣を表した庭園。水の流れを表現した白砂の砂紋と石組みが美しいです。
正面の一番大きな石が本尊阿弥陀如来。
左右の石とあわせて三尊仏。
周りの石は仏の十大弟子を表しているそうです。
三尊仏
仏のいる極楽浄土の前には、西に亀、東に龍が泳いで守っているそうです。
たぶん西に泳ぐ亀
たぶん東に泳ぐ龍
本堂裏庭「清浄庭」(池泉回遊式庭園)
本堂裏庭の池泉回遊式庭園「清浄庭」。 名前の如く、清浄な空気が流れているかのような空間です。
池泉庭園(ちせんていえん)とは、自然の景色を凝縮して創られる庭園の様式で、山があり川があり海がある庭です。「水」という要素が取り入れられているのが特徴。池泉回遊式庭園は、順路を定めて歩きながら鑑賞する方式だそうです。
「無位の滝」と名付けられた滝はその落差15m。
豪快な石組み
滝より落ちた水は、寺玄関前より参道脇を流れて行きます。
水の流れを滝から見ると、無位である存在が、幾多の流れの中で本堂前庭の極楽浄土にたどり着くと捉えることができるそうです。
うーん、難しい。
玄関前から参道脇を流れる滝の水
池を囲むようにわたる廊下の高さも北山氏の指示で作られているそうです。 庭園と建物が調和するように全て計算されているんですね。
何気なくわたる廊下も計算尽くし
日本庭園の池では、水際に並べられた岩は「荒磯」(波のうち寄せが激しい磯)、小石が敷かれれば「州浜」になるそうです。
池には立派な錦鯉が悠然と泳いでいます。
わらわら寄ってくる鯉たち。
こっちは「荒磯」ぞ
池には鯉のエサがあるのですが、エサやりが可能なのは中学生まで。
エサのあげすぎで鯉が体調不良になったので、子供のみ対象になったそうです。
丸々とした鯉だこと
とはいえ、本日の拝観者に子供の姿はありません。
お腹を空かした鯉たちが吸い寄せられるように人のところへ…
残念ながらエサはあげられんのだよ
庭園の完成は30年後!
2年の歳月を掛けて、2013年に作り上げられた「無量寿庭」と「清浄庭」。
それぞれの庭園の完成はなんと30年後だそうです。
庭が落ち着き、植えた木々が成長し、森をつくる。時間をかけてゆっくりと育まれていく庭園の変化。
何かとせわしない現代において、ゆっくりと流れる時間を楽しむ空間ですね。
地獄極楽図
本堂裏庭から涅槃(ねはん)堂へ向かうと「地獄極楽図 」の複製が展示されています。
入口にてソーシャルディスタンス発動中
地獄極楽図
地獄極楽図は、1784年に江戸の絵師、宗庵によって描かれたものです。
「私たちの悪い行いを端的に示しているのが地獄の世界。地獄絵図は作り話どころか、ノンフィクションの私たちの実体。自分の行いを反省し、自分の行動を戒め、地獄の心を静める、それがこの地獄絵図」とのこと。
地獄極楽図では、臨終から四十九日まで7日ごとに生前の行いが裁かれる様子が描かれているのですが、ひとつひとつ解説を読むと他人事ではなくなってきます。
地獄の使者がお迎えにきたよ
虫1匹殺した時点で地獄行きが決定です。
地獄行き、該当しない人間などいないのではないか。
虫を殺したら地獄行き
なかなか惨たらしい場面が多いのですが、「自分の行いを反省し、自分の行動を戒め、地獄の心を静める」その効果はありそうです。
地獄の閻魔王は最初に地獄に落ちた人間だといわれている
とかく怖いところが目立ちますが、絵図と説明を隅から隅まで見るとクスッと笑えるような要素もあります。
賽の河原で石を崩す係
こんなに怖そうな鬼、いかにもな金棒まで持っていますが、賽の河原では積んだ石を崩すだけで、どうやら子に危害は加えない様子。鬼も仕事っすから感が随所から感じられます。
極楽の入り口で「お前はまだダメだ」と追い返す係の鬼
お勤め終わりのお片づけ
ちなみに、地獄では時には鬼も裁かれます。
どの立場の人も悪いことをすれば報いが来るぞと。
鬼だって行いを間違えたら制裁をうける
盆には、地獄の窯の蓋が開いて地獄が休みになります。
鬼の休日、なぜか鬼にマッサージしている人間がいたり、鬼と戯れていたり。
ツッコミどころ満載。
地獄の窯の蓋が開く鬼の休日
また、絵図では四十九日法要までどうして7日ごとに供養が必要なのか、その理由を知ることができます。
この展示をスルーしてしまったら勿体ないですよ。
書家 金澤翔子さんとのご縁
涅槃堂内にはダウン症の書家、金澤翔子さんが書き上げた作品が常設展示されています。
翔子さんと龍雲寺の関係は、先代住職が大学の学長をしていた際、大学の先生からの紹介で知り合いになったそうです。その後、現住職の娘さんが翔子さんとお友達になり、お泊り会をするなど家族ぐるみでのお付き合いに発展していきました。
良縁の結果、翔子さんの作品が龍雲寺に奉納されています。
こちらは常設展示、龍雲寺の「龍」。
龍雲寺の「龍」
展示されたそれぞれの書の解説を読むとまた奥深いです。
蓋天蓋地(がいてんがいち)
○ まる
必見!世界一大きい般若心経
常設展示の中でもひときわ大きいものが「世界一大きい般若心経」。
翔子さんの30歳の記念作であり、代表作でもあります。
世界一大きい般若心経
5歳の時から書家の母親から書を学びはじめた翔子さんは、10歳、20歳、30歳と、10年ごとの節目に般若心経に挑んできたそうです。
ご本人によると
10歳、普通学級に通えなくなり絶望の中で描いた「涙」の般若心経。
20歳、書家の道が拓けた「希望」の般若心経。
30歳、皆さんに伝えたい「感謝」の般若心経。
「感謝」の般若心経、その大きさは 縦4m×横16m。
どのくらい大きいかと言いますと、人と比べてこの通り。
この通―り。
この圧倒的な迫力、ぜひとも実物をご覧になっていただきたい書です。
2020年秋の金澤翔子書展
龍雲寺では、金澤翔子書展を毎年秋に開催しています。
ポストカード売り場に今年の開催案内がありました。
2020年9月25日(金)~10月5日(月)に開催予定。
※コロナによる内容変更の可能性あり
2019年には約15,000名が来場した大人気の書展。 今年は新作も数多く発表予定、50作品が並ぶ最大規模の書展になるそうです。
山頂展望台に向かう
本堂見学のあとにオススメなのが山頂展望台。
山頂まで徒歩3分!
案内に沿って本堂の左へ行くと、散策道があります。
散策道
新緑を楽しみつつ、木々の間から本堂を眺めます。
しかし、それより何より目につくのが、まるで「もののけ姫のこだま」の如く点在するお地蔵様よ。
見てるで
わしら見てるで
お前さんのこと見てるで
黒猫まで現れたではないか
鐘楼堂
階段を上ると鐘楼堂が。
鐘楼堂
ここにもいるで
鐘つきは決められた時間のみなので、注意書きに気づかずうっかり鐘をついてしまわないように気をつけましょう。
見張ってるで
山頂展望台
左手に紫陽花を楽しみつつ、鐘楼堂からさらに上ったところが山頂です。
山頂!
山頂へようこそ
山頂に着いてすぐの右側は街並みを眺めることができます。
奥まで歩いていくと、佐鳴湖が。
あいにくの曇り空のため、佐鳴湖越しに南アルプスを一望とはいきませんでした。お天気の良い日にリベンジしたいですね。
佐鳴観音
山頂展望台には佐鳴観音も。
佐鳴観音は、昭和の区画整理事業で改葬を止む無くされた墓地の供養のために建立されたそうです。
観音様
龍雲寺の境内では、流れている空気が外とは何か違うような気がしました。
見ごたえのある展示と景色はもちろんのこと、空気を含めてその空間を味わいたい場所です。正直、本堂裏庭「清浄庭」には何時間でも座っていられそうです。
迷える子羊は訪れると頭がスッとするかもしれません。
個人的にお気に入りなのが、散策道の手前にある水琴窟(すいきんくつ)。
奥にあるのが水琴窟
水琴窟とは、日本庭園の装飾の一つ。手水鉢の近くの地中に作りだした空洞の中に水滴を落下させ、その際に発せられる音を反響させる仕掛けです。
興味津々でその音に耳を傾けてみると
なぜか忍者っぽく見える
「ぴちょーん、ぐわわわぁーん、ふぉーん」と、言葉では言い表せない音が響いてきます。
こ、これは!ものすごく安眠できそうな音だ。
寝室に欲しいです、水琴窟。
この記事を書いた人
- 文鳥を飼っています。
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