江戸時代から続く栄醤油醸造のこだわりを知る
公開日:2017/09/01
掛川市横須賀、古き良き街並みが残るかつての城下町に、江戸時代から続く醤油醸造所、「栄醤油醸造」があります。
創業は寛政7年。江戸幕府11代将軍、徳川家斉の時代。以来200年以上、伝統の味を守り続けてきたこだわりの醤油醸造所です。
今回は「栄醤油醸造」の工場見学に参加し、そのこだわりを調査してまいりました。
歴史ある天然醸造
栄醤油醸造は、1795年(寛政7年)創業。現在7代目が切り盛りしています。
200年以上の時を経て醤油醸造も近代化が進みましたが、「飽食の時代だからこそ醤油本来の価値を大切にしたい」と昔ながらの醤油造りを続け、「木桶造り」と「天然醸造」にこだわって今日まで伝統の味を守り続けてきました。
木桶造りとは名前の通り木桶の中で諸味(もろみ)を発酵させて醤油を製造すること。
現在では屋外に設置される大型の発酵タンクが主流のため、木桶造りの醤油の国内生産量はわずか1%だそう。
また天然醸造とは醤油を製造する上での工程に関する定義。原料となる大豆と小麦を、麹菌などの微生物の力だけで発酵・熟成させる「本醸造」であること、酵素の添加により酵素の促進を行っていないこと、保存料などの食品添加物を使用していないこと、の3点を満たした醤油造りを指します。
機械による温度調節や添加を行わない醤油造り。昔からのこだわりが感じられそうです。
工場見学に参加させていただき、早速現地調査に行ってきました!
醤油ができるまで
栄醤油醸造では事前予約制で工場見学を受け付けています。昔ながらの醤油造りを見ることのできる貴重な体験。ワクワクしながら店内へと向かうと、すぐに案内していただけました。
醤油蔵に一歩入ると、醤油の香ばしいにおい!
醤油造りは、まず「麹(こうじ)」をつくるところから始まります。麹とはカビの一種である麹菌を原材料である大豆や小麦に繁殖させたもの。麹をつくる工程によって麹菌から出る酵素が大豆と小麦を分解し、醤油の旨味や香りが生み出されるのだそう。
原材料
醤油の原材料からご説明いただきました。醤油の原材料は大豆、小麦、塩。まずは小麦を炒ってから砕き、麹菌が働きやすい環境を作ります。
こちらは炒った小麦を砕く機械。歴史を感じる佇まいです。
大豆を蒸す
大豆に含まれるたんぱく質は旨味の大部分を占めています。蒸すことで分解されやすくなるほか、殺菌の意味もあるそう。
大豆を蒸すための大きな窯。蒸加減は醤油のできあがりに大きく影響するため、指でつぶして慎重に見極めます。大豆の種類や年によって異なるため、長年の経験が必要な作業だそう。
麹をつくる
夏季は麹の仕込みを行っていないそうで、麹を作る室(むろ)と冷凍した麹を見せていただきました。
蒸したての大豆を冷まし、砕いた小麦と麹菌の素となる「種麹」を混ぜこみます。室の中でおよそ3日間麹菌を増やしていくのですが、時々混ぜたりほぐしたりしながら温度調節をし、麹が育つのを手助けするのだとか。
これが冷凍された麹です。少し緑がかっているのがわかります。
栄醤油醸造では醤油造り体験もすることができ、冷凍された麹はその際使用しているとのことでした。
塩水をつくる
地下100メートルからくみ上げた井戸水を使い、塩水をつくります。塩分の濃度は20%強。海水の塩分濃度がおよそ3%ですから、とても濃い塩水であることがわかります。この濃い塩分が悪い菌の繁殖を防ぎ、安全な醤油を造ることができるのだそう。
塩水をつくる大きな木桶の上にはざるが吊るされています。これも長い歴史の中で編み出された昔の人の知恵。桶いっぱいの水にざるを浮かべてその上に塩を乗せることで、かき混ぜなくても数日後には塩水ができあがります。
発酵・熟成
できあがった麹と塩水を混ぜたものを「諸味(もろみ)」といいます。100年以上使っているという木桶の中で、じっくりと1年半、諸味を熟成させていきます。
年季の入った醤油蔵です。ここには長い時間をかけて微生物が棲みついており、それが木桶造りを続ける栄醤油醸造にとっての大切な財産。日当たりや風通し、棲みついている微生物などそれぞれの蔵の環境の違いを「蔵ぐせ」と呼び、ここでしか作れない醤油の味を生み出すため守ってきたものなのだそうです。
夏は特に発酵が進むため、諸味の中からは泡のはじける小さな音がしていました。
2005年には耐震のため蔵の大改修を行ったそうですが、リフォームにとどめ、木の柱や土壁を残して、棲みついている微生物を残すことを選んだのだとか。
圧搾
熟成したもろみを布でできた袋に入れ、「ふね」と呼ばれるバスタブのようなものの中に積み重ねます。諸味自身の重さと、重石のちからで醤油が絞り出されるのですが、これは「生揚(きあげ)」と呼ばれるもの。この状態で出荷はしません。
大きな重石。水圧式の歴史ある機械で、今も現役で使用している醸造元は栄醤油醸造の他に1件程度しかないそう。
火入れ
生醤油を殺菌のために加熱。発酵が進みすぎてしまうのを防ぎます。こうして一番おいしい状態の醤油が、食卓に並ぶわけですね。
瓶詰め
出来上がった醤油を瓶に詰め、ラベルを貼って完成。200年余りのラベルの歴史は、店頭で飾られていました。
昔は一升瓶が主流だった醤油瓶も、今は五合瓶のほうが多く出荷されるそう。持ち運びに便利なプラスチックのボトルも販売していますが、やはり瓶のほうが趣があります。その昔は、持ち寄った木桶に量り売りで販売していたというお話もお伺いしました。
栄醤油醸造のこだわり
店頭に戻り、醤油の種類についてもご説明していただきました。
日本農林規格(JAS)によって定められて規定によると醤油は主に5種類。
・国内生産量にうち8割を占めるというこいくち醤油
・食塩を通常より多く使用することで発酵と熟成をゆるめ色を抑えたうすくち醤油
・主に愛知県で生産される大豆の割合を多くした旨味の強いたまり醤油
・一旦できた醤油にもう一度麹を加え再度発酵させた旨味の強い甘露醤油
・小麦の割合が多く、うすくちよりもさらに淡い色のしろ醤油
栄醤油醸造では、しろ醤油以外の4種類を取り扱っていました。用途によって使い分けることで、よりおいしく味わうことができるそうですよ。
もともとの屋号は「深谷醸造」という栄醤油醸造。先代が「今の在り方でとこしえに栄えるように」との意思を込めて商品名に「栄」を冠し、それがいつしか会社名になりました。
今回案内してくださった8代目、深谷允さんに「醤油造りで一番大切にしていること」を伺うと、「蔵ぐせを守ること。自分が生まれる前からうちの醤油を使ってくれているお客さんもいるし、ここの醤油でないとダメ、と言ってくれる人もいる。そういった人たちを大切にしていきたい」とのお答え。
このまっすぐな姿勢が、伝統の味を守りながらも進化していく、栄醤油醸造の強みなのかもしれません。
長い歴史の中のこだわりを知ることができたところで、本日の調査は終了です。
オススメ!
醤油ができるまでの工程を実際に見学するのは初めてで、貴重な体験ができました。
実際に自宅で刺身につけて食べてみたところ、こくと甘味が感じられてとてもおいしい醤油でした。
自分の住む地域が自慢できるものを知ることで、浜松周辺や遠州地方により愛着が持てるかもしれません。遠州には昔ながらの企業、店舗がたくさんあるので、これからも調査を続けていきたいと思います。
栄醤油醸造では1名から工場見学を受け付けているそうですよ。ぜひ、積み重ねてきた歴史とこだわりを感じてみてください。
この記事を書いた人
- プライベートは全力、仕事はそつなく、脱力系女子。
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